どさにっき AI 〜2018年9月上旬〜

by やまや
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2018年9月4日(火)

海賊版シンポ

_ これ行ってきた。取材記事は これとか これとか。

_ 海賊版対策において出版社がやるべきことを尽くしてないとは前から言われてたことなんだけど、その感がますます強くなった。出版社は CDN 事業者に対していまだ訴訟を起こしてないのにはじめから効果がないと決めつけてるし(出版社ではなく 著作者個人が訴えたケースはある)、何より今回明らかになったのは、出版社が作家とまったく連携してないってこと。

_ 赤松健がいきなり「出版社から何の説明もされてない」と爆弾を投下しちゃった。「作家の立場がブロッキング反対だったらどうするんですかね」と疑問を投げかけてたけど(実際は作家たちの方でも意見がさまざまでひとつにまとめるのは難しいとのこと)、作家と出版社の間で意見の調整をはかるどころか、まったく説明すらしてないって論外なのでは?

_ それから、最後の最後、パネルディスカッションの締めくくりに登壇者がひとことずつコメントを述べる場面の竹書房の人の発言。「業界慣行として作家との間で契約書を作らないことが多く、出版権がないために海賊版サイトにどうこう言えないのは反省すべきところ」

_ そういう慣習があるのは聞いたことがあったけど、こういう議論に加わっている以上、そのあたりはすでにクリアになってると思ってたよ。著作権法は素人なんでアレだけど、隣接権がないんだから出版社に出版権に設定されてないということは「出版社は権利者ではない」という理解なんだけど間違ってないよね? 作者が出版社に「許諾」しかしていないのであれば、出版社は海賊版であろうと他者が利用することを制限する権利を持たないはずで、口を挟む筋合いがない。海賊版サイトによる金銭被害が大きかったとしても、それは著作者への被害であって出版社の被害ではない。

_ 政府の検討会議の 第5回資料に「出版社による申立ての権原として、2号出版権だけでなく、利用許諾に基づく権利も許容されることが望ましい」 (*1)とあって、これは出版社だけでなく、出版権を持った出版社から許諾を受けた正規の電子書籍配信サイトからの申し立ても認めよう、という意図だと解釈して、でもそこまで広げる必要あるんかいな、と強い違和感があった。でも竹書房の人のこの発言からするとそれは間違いだってことだよね。出版社は利用許諾があるだけで出版権を持ってない(場合がある)から、これを認めないことにはブロッキング制度ができたとしても出版社は制度を利用しようがないってことだ。

_ もちろん、ちゃんと出版権が設定されているものもあるとは思うんだけど、それはどの程度なのか。今回の件では出版社に出版権があると考えていたからこそ、「権利者」としてその立場を尊重して議論してきたけど、実は権利を持ってないのだとしたら外野でしかない。海賊版対策のプレーヤーとして出版社が加わるためには、まず明確に権利者として振るまえるよう立場を確立しないといけないのでは。

_ なおこういった話とはまったく無関係に、このパネルディスカッションのハイライトは、冒頭の登壇者自己紹介で漫画家の有馬啓太郎が「みなさん僕のこと知ってます?」と言ったところで両手で猫耳のジェスチャーをした上原哲太郎先生だと思います。ネコミミモードでーす♪ かわいい


(*1): 2号出版権 = 紙の書籍(複製権)ではなく、電子書籍(公衆送信権)についての出版権。著作権法80条1項2号。

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やまや